指揮者コラム第3回「合唱人は変人?」

趣味は何ですか?と聞かれたときに、「合唱です」と即答するのにためらうのは僕だけでしょうか。

「合唱」というものが、合唱を知らない人からどのように映っているのかが、気になるときがあります。
公民館のドアの先で、「オエオエオエオエオエ~」と声が聞こえてきます。そのドアをそっと開けて中を覗いてみると、タコのように体をくねらせて得体の知れない踊りを踊っている集団がいます。全員が同じことをしているのかと思いきや、輪から離れて「ホイヤー」とか奇声を上げる人間もいたりします。
これらを客観的に見たときに、まともな人間たちの集まりだと思ってもらえるか、自信がなくなることがあるのです。

…とまあ、ここまでは、2割くらい冗談なのですが、合唱をやっている方々は、そういうことをあまり考えておらず、みんな「自分たちが普通だ」と考えているふしがあります。
例えば、「とりあえず歌ったら楽しくなるからさ!」という新入団員への言葉。これはひどい。

小学校教員をやっていると、意外と「歌う」という行為はハードルが高いことがわかります。低学年ならいざ知らず、高学年になると、自分の声をのびのびと出すということは、相当な信頼関係が必要なのです。学級(学年)経営ができていないと、隣の人から笑われそうで、自分の思うような声が出せなくなってしまうということがあります。
このように、子供に限らず、一般人の中には、人前で歌うことに抵抗がある人もいるのです。

ところが、合唱人ときたら、人前で歌うことが大好きで、いつでもどこでも歌おうとする始末。まわりの目などおかまいなしに、歌います。本当に異様な集団です。

とはいえ、合唱団の門を叩く人には、まともな一般人もいます。また、合唱を聴きに来てくださるお客様にも、一般人がいるのです。
そんな一般人を、立派な合唱人に育てるにはどのように手厚くフォローしてあげたらよいのでしょうか。そんな一般人に、合唱ってすごいな、自分もやってみたいなと思わせるためには、どのように惹きつければよいのでしょうか。そんな一般人を、どうしたら少しずつこっちの世界へ汚染することができるのでしょうか。

「なんだかよくわからないけれど、みんなで歌うと楽しい。」そんな合唱のもつ魔力のようなものがあることも事実です。でも、この魔力の上にあぐらをかいていると、自己満足の変人集団になっていってしまいます。きちんと科学をしながら合唱することも大切です。新人の育成計画、聴衆への配慮あるステージング…不思議なことに、そんな科学を突き詰めていくと、さらに強い魔法がかかります。

また、合唱以外のことも忘れてはいけません。
名前のない合唱団には、お酒が好きだったり、走るのが好きだったり、山に登ったり、ポケット的なモンスターを狩りに行ったりする小集団がいっぱいあります。これが、合唱へのエネルギーになっていると確信します。

合唱以外にも全力投球できる。そんな合唱団こそ、僕は健全な合唱団だと思うのです。

※当団常任指揮者、平田由布による不定期連載コラム第3回です。
第1回「“手段”としての音楽」
第2回「人は力」

次回もお楽しみに!